もっとも必要なのはお節介精神!?
ケアマネージャーという仕事
ケアマネージャー(=介護支援専門員)という資格がスタートしたのは、1997年のこと。私自身がその資格を有していることもあり、ケアマネージャーという仕事にはこだわりも、思い入れもあります。 今回は、そんな私自身の思いとともに、ケアマネージャーの役割や仕事についてお話していきます。
看護チームを繋ぎ、まとめる扇の要
ケアマネージャーの仕事は、訪問看護の利用者さんが適切なサービスを受けられるよう、最適なケアプランを作成することです。そして、医師やヘルパーさんなど、利用者さんを支える看護チームのパイプ役を担うのも重要な役割です。 いわば、ケアマネージャーは、オーケストラの指揮者のようなもの。個々の力を引き出しつつ、チームを取りまとめる扇の要とも言えるでしょう。 そんな重要なポジションを担うケアマネージャーは、福祉や医療、保健の制度やサービスなど、豊富な知識が求められます。すべてを知っていなければ、利用者さんに最適なサービスをご案内することができないからです。国が実施する資格試験の合格率が10~20%前後となかなかの難関なのも、それだけケアマネージャーに求められるもののレベルが高い証拠でしょう。かく言う私も、資格を取得する際には猛勉強しました。 そんな優秀であるはずのケアマネージャーですが、実際は人によって質の差が大きいという声もあります。これはおそらく、資格を取得後のあり方に問題があるのだと思います。 ケアマネージャーに必須な知識の中でも、制度やサービスに関するものはわりと頻繁に変更や更新がなされます。つまり、資格を取ったらそれで完了ではなく、情報や知識を常にアップデートしていかないと、ケアマネージャーとしての価値は下がっていく一方です。 ある意味、ケアマネージャーの仕事は手抜きをしようと思えばできてしまうし、一人ひとりを適当にさばいて数をこなして売上を上げる、なんてこともできてしまいます。原則、1ヶ月に1回以上、利用者さんを訪問することが決められていますが、それを守っていればいいと考える人も、残念ながらいるのです。ケアマネージャー個々の質の差は、こんなところからも生まれているのでしょう。 私自身は、アップデートを欠かさず、常に全力で利用者さんと向き合い、よりよいケアプランを提供できるケアマネージャーでありたい、と思っています。
自分の足で、目で確認して、最適を選び取る
ケアマネージャーがアップデートするのは、制度やサービスなどに限りません。 たとえば、施設の情報。利用者さんがデイサービスを希望する場合、その人に適した施設の選定をするのもケアマネージャーです。 利用者さんの身体の状態、希望するサービスに最適な施設をセレクトするため、私は自分の足で実際に施設を見学に行きます。環境やスタッフのサポート体制などをしっかり確認し、どの施設なら利用者さんが心から快適に過ごせるのか、を見極めるのです。 こうしたセレクトは施設に限らず、ケアプラン全体に渡りますが、今のように選択ができるようになったのは、介護保険ができたおかげでもあります。 今あたりまえのように利用者さんが受けているサービスは、介護保険ができる以前はほとんど使えないものでした。杖や車椅子、ベッドなどの介護用品は購入が必須でしたし、介護に伴う家の改修も含め、多くの費用を要しました。また、医療を受けるには病院まで行かなくてはいけませんし、その他の生活を支援するサービスや在宅看護などもほとんど利用できませんでした。それが、介護保険制度ができてガラリと変わったのです。 介護に必要なものはレンタルができるのはもちろん、身体の変化に合わせて交換も自由。必要がなくなれば業者が回収してくれます。また、医療や在宅看護、デイサービスなども利用者負担1~3割で受けられるようになりました。 こうしたサービスを調整して、利用者さんが最適な暮らしを送れるよう支援することがケアマネージャーの仕事。だからこそ、私は自分の足と目での確認を大切にしています。利用者さんにとって何が必要なのか、どこまで必要なのか、そして、何のために必要なのか。一人ひとりの状態や環境、希望を加味しながら、知恵を絞るのです。 もちろんそこには、金銭的な要素も加わってきます。見積もりを比較し、適正価格なのかを吟味し、適用できる保健や補助はないかを調べ、利用者さんにとって最適なプランを練り上げていくのです。
お節介精神がケアマネージャーには必須!?
ケアマネージャーにとってもっとも大切で、必要なものとは何でしょう? 医療従事者としての経験? それとも、介護士としての実績? もちろんそれも大事ですが、それ以上に、圧倒的に必要な資質があります。それは、お節介精神。それも、ちょっとやそっとのレベルじゃない、超絶なお節介精神です。 お節介を辞書で調べると、「いらぬ世話をやくこと」と出てきます。つまりは、余計なこと。本来はあまりいい意味で使われない言葉です。けれど、私のお節介は、いらぬものでも、余計なことでもないと自負しています。 たとえば、利用者さんに有益になりそうな情報は徹底して調べます。けれど、それをすぐに利用者さんにお薦めしたりはしません。集めた情報が無駄になることもあります。ただ、いつ、何が必要になってもすぐに対応できるように準備を怠らない。これが、私のお節介です。 では、なぜ私がそこまでお節介を焼くのか。それは、ケアマネージャーだからということに加え、私自身の体験が根底にあるからです。 このコラムの第1回、第2回(※それぞれにリンクを貼る)でもお話しましたが、私が今、訪問看護の仕事をしているのは、母の死が一つのきっかけです。母は自宅介護をしていましたが、当時はまだ介護保険がない時代で、あれもこれも利用できない状況。床ずれができてもそれを癒す介護用品も用意できず、さまざまなサービスを利用したくても、それを調整してくれるケアマネージャーもいません。まだ、資格ができる以前でしたから。もちろん、訪問看護師もいないので、私が福井から実家のある千葉まで通っていました。 母を見送って6年後に介護保険制度ができ、これを活用できていれば、もっと母に快適な余生を送らせてあげることができただろうと。ならば、母にできなかったことを、今困っている方々にしてあげたい、してあげよう。そこに私の原点があります。 だから私は、いつでもサッと利用者さんに手を差し伸べられる態勢を整える。そんなお節介を今後も積極的に焼いていきたいと思っています。
一人ひとりの利用者さんと真摯に向き合う
今、巷では「ケアマネージャーは将来なくなる仕事」だと言われています。AIに仕事を奪われていくと。たしかに、看護に関する制度やサービスの情報を検索するのもコンピューターのほうがスピーディです。また、システム化してマッチングアプリのようなものを利用するなら、それはとても効率がよく便利かもしれません。 こうしたAIの波は介護の現場にも押し寄せていて、ロボットが介護する未来もそう遠くないという声もあります。 遠い未来のことはわかりませんが、私自身は、人にしかできないことがあると考えています。前回のコラムでもお話したかと思いますが、介護や看護は「人間が人間と関わる仕事」だと私は考えています。言葉に込める思いとか、触れ合った時のぬくもりとか、一緒に笑い合う瞬間とか。まだまだ、ロボットやAIには譲れない部分がたくさんあると思うのです。 少子高齢化が叫ばれて久しく、今後もその傾向は続いていくでしょう。そんな時代の中で、訪問看護の重要性はますます高くなると感じています。効率化も必要でしょう。AIやロボットの導入も必然なのもわかります。けれど、いえ、だからこそ、私はお節介精神を発揮して、一人ひとりの利用者さんと真摯に向き合いたいと思っています。心を通わせ、信頼を得て、利用者さんの人生に寄り添う。そんな人間らしい訪問看護を、ひなたは守りたいと思うのです。




