信頼されるステーションになるために
オリジナルの力み(つよみ)を活かす
他社にはない強みを活かす。よく使われる言葉ですが、私たちはあえて、つよみを「力み」と表現しています。本来、こうした読み方はしない、いわゆる当て字です。もちろん、そこには私たちなりの意味を込めて表現しています。 今回は、私たちの「力み」をお伝えするとともに、そこに込めた意味についてもお話させていただきます。
強みと弱みはうらはら
訪問看護ステーションには、大きく分けて2つのタイプがあります。ひとつは、医療法人など、母体が別にあるステーション。もうひとつが、母体のない独立系のステーションです。 母体が別にあるステーションの強みは、経済的に安定しているということ。利益度外視とは言いませんが、利益を無理に追求しなくてもいいので、余裕を持ったサービスが行えます。ただし、母体である病院のロジックで動かざるを得ないので、意外と制約も多く、臨機応変な対応がしにくいという現実もあります。 一方、独立系のステーションは縛られるものがないので、現場ごとの事情や状況に応じたサービスが行えます。けれど、母体がない分、利益に対するシビアな視点も必要です。それが行き過ぎると、利益追求ばかりで、利用者さんを数字で見てしまうようになってしまいます。 このように、どちらにもメリットとデメリットがあります。 では、私たち、ひなた訪問看護ステーションはどうなのか。タイプとしては独立系です。では、利益優先なのかと言えば、決してそうではありません。その一因は、責任者である私が、とてつもなくお節介だということでしょう。 以前にもお話しましたが、困っている利用者さんがいると、解決したくてしょうがない、というのが私の性分。ときに、損得の基準を越えてお世話をすることもあるのですが、それにブレーキを掛けてくれるのが、事務長の存在です。この絶妙なバランスがあってこそ、ひなたは今までも、これからも、存続し続けられるのです。
ひなたの力みは、さまざまな力の集合体
さて、ここまでは一般的な「強み」のお話をしてきました。ここからが、ひなたの「力み」のお話です。 ひなたが胸を張って言える「力み」は、看護力の高さに尽きます。スキルも経験も申し分ない、トップレベルのプロの看護師が揃っていること。それも看護力の高さを物語る一因ですが、それがすべてではありません。私たちの考える「看護力」には、もっとさまざまな「力」が含まれています。 たとえば、コミュニケーション力。利用者さんの希望に沿ったケアを行うには、何を望んでいるのかを知る必要があります。そこで求められるのがコミュニケーション力です。とは言え、介護初日に「今日は何をしたいですか?」と聞いても、利用者さんからは答えをもらえないかもしれません。初対面なのですから当然です。何度も通って言葉をかけ、少しずつ信頼を積み上げていくことがまず先決。相手の心を開かせる過程も含め、高いコミュニケーション力が看護師には求められます。 さらに、利用者さんの気持ちを汲み取る観察力も必要でしょう。また、咄嗟のときの判断力や対応力も重要。それらすべての「力」の集合体を、私は「看護力」だと考えています。 力みにはもう一つ、なくてはならない「力」があります。それは、ご本人とご家族の力です。 利用者さんの持つ悩みや望みが一人ひとり違うように、ご本人とご家族が持つ「力」もそれぞれに違います。ご家族が何をどこまでできるのか、を把握して、それを支援することはとても大切な私たちの仕事です。 看護師一人ひとりの個々の力だけでなく、ご家族はもちろん、利用者さんに関わるすべてのスタッフが協力し合うチームの力、そして、ひなたのステーションとしての力が合わさって大きな力になります。私たちはそれを「力み」と呼んでいるのです。
情報共有を、力みを強化する第一歩に
先程、チームの力、ステーションの力と言いましたが、ひとりでは解決できない問題も、仲間と共有することでクリアできることがあります。「三人よれば文殊の知恵」です。そこで、訪問先での出来事を情報として共有するようにしていますが、これがときに、逆効果になる場合もあります。 ネガティブなことがあったとき、それを愚痴として吐き出す場合です。残念ながら、人は楽な方に流されやすいので、愚痴を言って発散することに慣れていってしまいます。これでは、サービスの質が低下していくばかりです。 ネガティブな状況に遭遇したときは、どうしたらそれを改善できるのか。みんなで知恵を出し合い、前向きに話し合えば、個々の力も、チームの力も、ステーションの力も向上させることができるでしょう。 もう一つ、チームで動くときに気をつけたい点があります。それは、自分たちがやりやすい環境に整えすぎていないか、ということ。効率をあげるのは大事なことです。けれど、それが自分たちの都合だけを優先したものになっていないか、改めて考えてみる必要があると思います。 訪問看護という仕事は、効率や数字では評価できないものです。利用者さんがいかに快適に過ごせるか、その満足度こそが私たちの評価になります。だからこそ、何よりも優先すべきなのは、自分たちの働きやすさや効率よりも、利用者さんの快適ライフです。そのことをしっかりと心に刻んで、日々の訪問に励んでいます。
ひなただからできること、をもっともっと
以前、まだ私ががん研究センターに勤めていた時代の話です。 患者さんに「髪を洗ってほしい」と言われたのですが、「手が空いたらね」と受け流してしまったことがあります。たしかに、いそがしかったのも事実ですが、自分だけ違うことはできないという気持ちもありました。けれど、翌日、その患者さんが亡くなってしまい、私の心には「これでよかったの?」という疑問が生まれました。 大きな組織の中で働く場合、組織のロジックで動くことが求められます。それによって仕事を効率よく回すでき、一定のクオリティを保つことができるのは事実でしょう。けれど、それが利用者さんの希望に沿うことになるかどうかは別だと、私は思っています。 ひなたは小さなステーションです。だからこそ、利用者さんの声をきちんと拾える臨機応変な対応ができると考えています。もちろん、そこには所属している看護師たちの看護力あってこそ。そして、「心から接する」という基本姿勢もまた、大切な要素の一つです。 利用者さんが最期を迎えるまでにしたいことをどこまでしてあげられるのか。そのために私たちは何ができるのか。そこに心を砕き、できることはすべてやる。これもまた、ひなたの基本であり、力みでもあります。 訪問看護は「人間が人間と関わる」仕事です。ルールに縛られていても、利益にこだわりすぎても成り立たない仕事だと思っています。 私たちは毎日、利用者さんに「今日は何がしたいですか?」と尋ね、それを全力で叶えるお手伝いをしています。 一人でも多くの利用者さんの、一つでも多くの願いを叶えるステーション。それをひなたの力みとできるよう、今日も全員で力を合わせています。




