目先の得より大切なこと
人と人がつながり、心と心が通い合う
ひなた訪問看護ステーションという場所を維持していくために、お金は大事だし必要なもの。だから、「収益を考えて」と私はよく口にします。けれど、どうやらその口癖は自分にこそ言わなくてはいけない言葉だったようです。
言葉と行動はベツモノ、かもしれない
先日、事務長に指摘されたのですが、ひなたの中で一番、利益を考えない行動をしているのが私だそうです。自分でそのつもりはないのですが、私は困っている人の問題を解決したくてしょうがない性分だと思われているよう。損得基準を越えて、面倒を見てしまうところがあるのだと言います。 そう言われてみれば…少々、思い当たることがありました。 まだ開業して間もない頃、ひなたには、たくさんのケア・マネージャーさんが出入りしていました。仕事のつながり上、それは珍しいことではありませんが、当時のひなたは、ケアマネさんの何でも相談室という感じでした。 前回のコラムでも書きましたが、ケアマネの仕事は御用聞きでは駄目。そうならないためには、常に新しい情報を仕入れたり、知識を吸収したり、日頃から勉強が必要です。私の場合、そういうことが苦にならないタイプなので、利用者さんのメリットになることなら、と徹底して調べまくります。そこで得た知識や訪問介護の現場で得た経験は、日々アップデートしながら私の中に蓄積されていきます。
困ったらひなたへ、が合言葉に!?
そうした経験値を元に、ケアマネさんにアドバイスをしたり、スキルアップのお手伝いをしたり、を当時も今もよくしています。特に、開業当時はまだ利用者さんも多くなく、時間的な余裕もありましたから、利用者さんの担当ケアマネだけでなく、悩んでいたり困ったことを抱えていれば、誰の相談にも乗っていました。ひなたの利用者さん以外の患者さんの話も聞いていたので、「困ったらひなたへ行けばなんとかなる」とケアマネさんたちの間では噂されていたのだとか。 私ひとりでできることは限られていますし、ひなただけでできることにも限界があります。どうすれば、より多くの方にその人らしい最期を迎えていただけるか。少しでも心残りなく安らかな旅立ちにして差し上げられるか。そう考えたとき、御用聞きじゃないケアマネさんが一人でも多くなれば、と思ったのです。私の経験や知識が役に立つのなら、惜しまずどんどん渡していこうと。その結果、幸せな老後や最期を過ごす人が増えたのなら、とても幸せなことだと思いませんか?
情けは人の為ならず、巡り巡って自分に返る
もっとも、こうした何でも相談室は、ケアマネさんのためだけ、というわけでもありません。ひなたを紹介、利用してくださるケアマネさんが増えたのは、損得感情を越えた「つながり」の賜物とも言えます。おかげさまで、福井では特に営業をかけずとも、利用者さんが途切れるどころか、年々、増えていきました。ありがたいことです。 訪問看護は、人と人のつながりがとても大切な仕事です。利用者さんを中心に、看護師、医師、ケアマネ、ご家族などがつながり、いかにして利用者さんが望むように過ごせるかを共に考え、協力し合っていきます。だからこそ、私たちは関わるすべての人とのつながりを、これからも大切にしていきたいと考えているのです。
連携プレーで里帰りを実現した話
つながり、という言葉で思い出した利用者さんがいます。乳がんを患っていたシングルマザーさん。女手一つで3人の息子さんを育てた肝っ玉母さんです。 残念なことに、乳がんが爆発するまで放置してしまい、余命を宣告されてしまいました。この母の一大事に息子さんたちが立ち上がります。長男が料理、次男が掃除と洗濯を請け負い、三男は癒やし担当として利用者さんに寄り添いました。そんな中、「実家に帰りたい」と利用者さんの望みが…。 そこからは医師、薬剤師、看護師、我々ひなたが息子さんたちに全面協力し、車移動中の注意事項や、食事のアドバイス、包帯の変え方、容態が急変したときの対処などを伝えながら、里帰り計画を練っていきました。実家からこちらへ帰ってきてからのお迎え体制も万全に整えて私たちは待機し、利用者さんと息子さんたちを送り出しました。幸い、道中に大きな問題やトラブルもなく、無事に実家に到着。妹さんにも会うことができ、利用者さんはとても喜んでいらっしゃいました。そのうれしそうなお顔を見ると、この仕事をやっていてよかった、と心から思います。 在宅看護はそれに関わる全員が、いわば、運命共同体です。私たちが利用者さんやその病と真摯に向き合うことはもちろんですが、ご家族にも相応の覚悟が問われます。利用者さんの望みを一番に考え、協力し合えるいい関係を、スタッフとも、ご家族とも築いていきたいと思います。




